Overview
AIと組めば、1人で3倍の仕事を回せる。よく言われるし、半分は正しい。
手は3倍になる。資料も、コードも、動画の修正も、以前の何分の一かの時間で戻ってくる。
増えないものがある。頭の容量だ。容量を超えて仕事を受けると、受けた瞬間に破綻が決まる。
ANDOORは、代表1人とAIのパートナーで案件を回している。AIのパートナーとは、役割ごとに分けて仕事を任せているAIのことだ。以下は、その現場で数えた話になる。
崩れるのは、成果物の外側から
先に崩れるのは、作る工程ではない。その前と後ろだ。
3倍の案件を受けても、作る工程そのものはしばらく崩れない。AIのパートナーが書き、作り、直してくれる。
先に落ちるのは別のものだ。返信が1日遅れる。朝の定例に出られない回が増える。先週の打ち合わせで決まった前提を、別の案件の前提と取り違えたまま作業が進む。
どれも、AIに仕事を渡す前の段階で起きている。
誰に何を返すか。どの会議に出るか。どの前提で作るか。決めるのは本人で、決める作業の量は受けた案件の数だけ増える。手がいくら速くなっても、この量は減らない。
末路は、出来の良いものを、違う前提で、遅れて出すことだ。
取り違えた前提で作られたものは、どれだけ丁寧に作っても先方の欲しいものと違う。一つひとつは翌日に直せる。ただ、直すかどうかを決めるのも同じ頭で、その判断も同じ順番待ちに並ぶ。先方から見えるのは、遅い返信と、話が噛み合わない打ち合わせと、作り直しだ。出来の良さは、その後ろでしか見てもらえない。
頭の容量とは、何のことか
容量という言葉で済ませると、自分にあるかどうかを測れない。3つに分ける。
同時に持てる文脈の数
案件ごとに、誰が何を決めたか、どこで止まっているか、次に誰が動くかがある。これを何件分、混ぜずに頭に置いておけるか。
切り替えから戻る時間
A案件の会議を終えて、B案件の資料を開く。Bの前提を思い出し、元の速さで判断できるようになるまでの時間。案件が増えるほど切り替えの回数が増え、この時間の合計が1日の中で場所を取る。
自分しか下せない判断の回数
この表現で出すか。この見積もりで出すか。この修正で先方に返すか。AIは選択肢を並べられる。最後に決めるのは、名前を出す本人だ。1日に何回、質を落とさずに決められるか。
AIはこの3つを増やさない。先に埋める
手が速くなった分だけ、判断の順番が早く回ってくる。容量は同じまま、埋まるのが早くなる。
以前は資料1本に半日かかった。その半日、次の判断は来なかった。AIと組むと資料は1時間で戻ってくる。戻った瞬間に、これでいいかを決める番が来る。
10月21日を数えた。会議は5本で、4つの案件にまたがっていた。同じ日、会議の無かった案件も含めて6つの案件から、AIのパートナーが成果物を上げてきた。質問表20行、会議資料9枚、デモ動画の修正3回、画面案、提案の叩き台9枚、セキュリティ情報への影響調査の回答文。
手の側は、1日でこれだけ回る。頭の側では、上がってきた全部について、出すか直すかを決めている。
ANDOORでは、作るAIとは別に、出来を採点するAIを置いている。採点役が3回作り直させても合格を出さず、本人が決めるしかなくなったものが、この日2件あった。
その日、取引先の共有表で事故が起きた。
質問を20行足す作業を、AIのパートナーに任せた。表には先方の担当者も同時に書き込んでいた。書き込む行を最初に1回だけ決めて連続で入れさせた結果、先方の担当者が書いていた行に上書きした。
先方の担当者は自分の行を入れ直し、こちらからはお詫びをした。質問の中身とは関係のないところで、頭を下げた。
AIの手が間違えたのではない。複数人が同時に触る表だという前提を、指示を書く時点で持てていなかった。容量が埋まると、最初に抜けるのはこういう前提だ。
10月7日には、もっとはっきりした数字が出ている。
22の案件それぞれについて、どこまで進み、どこで止まり、誰を待っているかを、AIのパートナーに1枚の図にまとめさせた。止まっている所を抱えていた案件は21件。その21件の待ち先を数えると、7件が本人だった。署名していない書面、サイトの更新を出してよいかの判断、公開物の表記の決定。どれも聞かれれば1分で答えられたことだ。
手は待っていなかった。待っていたのは判断で、判断の窓口は1人しかいない。
容量はどこから来たか
容量は才能ではない。渡す相手がいなかった結果として付いたものだ。
12年、一人で仕事をしてきた。デザインを作りながらサーバーの設定を決め、企画書を書いた日の夕方に請求書を出す。どの案件の前提も、誰にも引き継げないので自分で持ち続けるしかなかった。
相談できる相手がいないので、迷った判断も自分で下して、結果も自分で引き受ける。それを12年続けて、ようやく複数の案件の文脈を一つの頭に置けるようになった。
それだけ積んでも、上限はある。
10月21日の上書きも、10月7日の7件も、12年分の容量の上で起きた。AIで手が3倍になった今、上限に当たるのは以前より早い。容量があることと、どこまでも受けられることは別の話だ。
3倍受けていいのは、誰か
3倍受けていいのは、3倍の頭を持っている人だけだ。持っている人でも、その上限までだ。
上限を知らないまま受けるのが、一番危ない。先に測る。
今日下した判断を数え、そこから、あとで自分で覆したものと先方に差し戻されたものを引く。残った数が、1日に質を落とさず下せる判断の回数だ。次に、案件1件が1日に求める判断の回数を数える。前者を後者で割った数が、いま持てる案件の数になる。
足りないなら、受ける量を増やす前に、増えた手を質に使う。案を1つではなく3つ作って比べる。先方に出す前の見直しを1回から3回に増やす。先方が気づく前に直す。
量を増やしたいなら、手ではなく判断を減らす。
何を基準に決めているかを言葉にして、AIのパートナーに渡す。表記の揺れ、見直しの観点、どこまでなら先方に聞かずに直してよいか。言葉にできた判断の分だけ、本人が下す判断の回数が減る。減った分だけ、受ける量を増やせる。
ANDOORが22件を持てているのも、判断の多くを言葉にしてAIのパートナーに渡してきたからだ。それでも7件は、本人のところで止まっていた。